カンフー始める。

カンフーを始めた。カンフー=中国拳法。代表的なところでは大極拳とか少林寺拳法とか、あるいはジャッキー・チェーン(?)の酔拳もみなカンフーだが、私がやっているのは意拳というちょっとマニアックなものであるらしい。らしいというのは、全く予備知識なしに始めたら、意拳だったのである。


中国拳法は非常に多種に渡る。刀などの武器を使うものを含めた中国武術全体では、いったい何百あるのだろうという感じだが、おおざっぱな分類では、地域的には長江を挟んで南北にわけた北派と南派、特徴的には道教的概念の大極拳のような内家拳と仏門系の少林寺拳法のような外家拳にわかれる。さらにいえば、前者は筋肉などを鍛えるハードパワー型で、後者は「気孔」などで知られるインナーパワー型とでもなるだろうか。学術的にはかなり難解で奥深く、こんなシンプルな区別にはならないようだが。


さて、私のはじめた意拳は、インナーパワーの内家拳である。したがって練習では、立ったまま、胸の前に両手でゆるく弧をつくり、イメトレというか感覚トレーニングをしてインナーパワーを鍛えるところから始まる。見た目はタダのヘンな人である。


しかし「『気』が××」といった概念的な宗教じみた話はなく、「ここを××したら××になる」とひたすら探求型で理論的で、理屈っぽい。そしてインナーパワーを鍛えながら、その次に、いかにそれを外に発するかという練習をする。


椅子に座ったままの仕事をしている私は、普段は脳の一部しか使っていないのだが、意拳をしていると、脳細胞を駆使しながら、体の各部分を意識し、効果的で効率的な動きを考えなければならない。脳みそと体がいっしょに動くというのは何十年ぶりかである。


意拳の歴史は、実は100年に満たないほどで、中国拳法の中では比較的新しい。現在、北京にある道場の先生は3代目にあたる。この先生、一見、するとただの人のよさそうなおじさんなのだが、弟子たちの話によれば、ひとたび打拳を繰り出すと、人が変わるのだとか。私はちょっと押されただけで、手首にあざができていた。


またこの先生、双子のお兄さんがいて、この方も達人なのだという。写真を見るとそっくりさんで、素人目にはどちらがどちらかよくわからない。さらに先生の息子も相当強く、奥様は美人で大の男をふっとばすという意拳の達人。一家でカンフー映画が撮れそうだ。


なお、意拳は非常に実践的で強烈な拳法という話だが、先生いわく、「新陳代謝がよくなるので、お肌もきれいになって、美容にもいいし、ダイエットにもなる。心臓病や胃腸病、高血圧や不眠症にもいいんだよ!」だそうである。