美人タクシー運転手

タクシーに乗ると、運転手は美人のお姉さんだった。茶髪に赤いバンダナをキリリと巻いて、ちょっとヤンキーな80年代風美人である。北京でタクシー運転手といえば、たいがい、鼻持ちならないおっさんだ。たまに運がいいと、親切でやさしいおっさんに会う。さらに非常に運がいいと、面白い青年運転手に会う。なかにはごくまれに、おばさん運転手に会うこともあるが、基本的には一筋縄ではいかなそうなごっつい中年女性である。


そのおねえさんは20代後半か30代前半、細くて長くて白い手で、ひょいとメーターを倒すと、「どこへ?」とハスキーな声で聞いた。一瞬、自分がどこにいるのかわからなくなり、「お姉さん、美人だねえ」と声をかけると、「ありがと」と肩をすくめ「それでどこへ?」とまたハスキーな声で聞く。


行き先を告げると、彼女はスピーカーから流れる中国R&Bなメロディにのって鼻歌を歌いながら、大きなハンドルを細い腕でくるくると回した。聞けば、この仕事をして5年くらいになるという。北京が映画の中のニューヨークかどこかに見えたひとときだったが、思えば北京滞在ももう3年。ニューヨークうんぬんというのは、北京といえば××という刷り込みとその落差が見せるささいな幻想だったかもしれない。