団地的地下探検

私が住む団地の地下は巨大な駐車場になっている。地下までエレベーターで降り、雨に濡れずにそのまま車に乗って出かけられるというしくみ。しかしこの地下駐車場、エレベーターで試しに降りてみると、通路の先は暗闇でどこにどうつながっているのかわからない。しかもすえたような匂いが充満し、はげた壁の茶色いシミから、何かこの世のものではないものが滲み出してきそうで恐ろしい。


それで逆に外から辿ってみようと、最近、帰宅のたびに地下駐車場を利用している。前にも書いたが、北京の団地は敷地ごとに柵で囲われ、出入り口は限られたところにしかないため、地上を歩くと私の家まではぐるりと遠回りすることになる。この点、地下を通れば、最短距離でたどり着く。


近道で便利、のはずが、肝心の私の部屋につながる出口が見つからない。団地は階段ごとに1単元、2単元と名前がついていて、それぞれが独立している。私は7単元にあたる。6単元までは見つかるのだが、なぜか7を抜かして8単元になる。


地下駐車場には売店兼修理店兼洗浄店があり、人が暮している。その地下の住人に聞いてもよくわからない。しかたないので、懐中電灯を持って、もう一度、エレベーターで地下まで降り、暗闇の中を進んだ。小さく区切られた部屋をわたりながら、うろうろしていると、異臭が鼻につく。白いはずの壁はただれたようにシミだらけだ。どこからか低い振動音が伝わってくる。


カビと糞尿の入り混じったような匂いに、カッパドキアの岩壁に掘られた無数の洞窟住居を思い出す。すでに住人はなく、コウモリの住処となり、灯りを向けると、黒い天井がいっせいにうごめいた。


さっぱり出口が見つからないので、引き返そうとすると来た道が分からない。数段の階段を登ったり、部屋を跨いでいるうち、ふいに灯りが見えた。出口かと近づくと、何故かそこはトイレで大便がたまっていた。


そんなことを何度か繰り返し、ようやく駐車スペースの裏に隠れ通路のようなところがあるのを見つけた。そこから何番目かの部屋を入ると、私の部屋に続くエレベーターが現れる。これがRPGなら、音楽が鳴って盛り上がるところである。


それにしてもこの地下駐車場、近道ではあるかもしれないが、ここでうっかりこの世のものでないものか、あるいはもっと危険なものに出くわしても文句は言えないと思う。