悪夢と宝くじ熱

昼寝が好きだ。北京で暮らし始めたころ、「昼寝は体にいいのよ」と中国人の友人に勧められ、以来、昼寝をするようになった。今では昼を食べるとたちまち、奈落の底に引きずりこまれるような睡魔に襲われる。道端でも寝られると思う。


さておき、太陽がさんさんとあたる南向きの部屋で、気持ちよく昼寝をしていると、うつらうつらしたころに、表でクラクションが響いた。私の家の脇には路地があり、ときどき出る車と入る車が鉢合わせする。どちらかが引けばいいものの、どちらも断固引くということをしないため、嵐のごときクラクションの応酬が始まるのである。


うるさいなあと思ったものの、暖かい雲に包まれたような眠気には勝てない。天に轟くクラクションの音を聞きながら、どうして中国の人はこんなに自己主張が強いんだと眠りに付くと、夢の中では人生の荒波をバッチリ乗り越えてしまったような中年の中国人女性が何かを押し切ろうとまくしたて、私は必死でそれから逃れようとしていた。悪夢だった。


夕方、新聞を買いにスタンドに行くと、小さなスタンドの中と外はむさくるしいおじさんたちでいっぱいになっていた。みな新聞を広げ、数字の組み合わせを真剣に考えている。店のお兄さんに何かと聞けば、すっかり定番人気となった宝くじだそうである。


中国では宝くじのことを「彩票(ツァイピャオ)」と呼ぶ。大きくわけてスポーツくじと福祉くじの2種類があり、収益の一部がスポーツ施設や福祉に回されることになっている。スポーツくじにはサッカーくじやバスケットボールくじなど、また福祉くじには数字の印刷された簡単なものから自分で数字を選ぶものまで各種あり、さらに地方によっても異なるのでややこしい。


広州の新聞「羊城晩報」によれば、全国の宝くじ購入者「彩民」は約7000万人、今年10月までの収益は540億元(約7000億円)以上という。1枚2元程度の宝くじだが、人口13億人を抱えるこの国では、そのマーケットはいまさらながらウルトラスーパーなものとなる。


宝くじサイトもまた多く、過去の当たりナンバーのデータや予測などを有料で提供している。そして当たりくじを巡る悲喜こもごもの人生ドラマはときおり新聞のネタとなり、その熱狂振りは留まらない。


ところで先日、日本に帰国したとき、歳末ジャンボに長蛇の列ができていた。日本も最近、格差社会などと言われるようになってきたが、こうした夢売り商売は、リッチと貧乏の格差が生じるところで本領を発揮するのかもしれない。もっとも、万年ビンボーの私は同時にあまり夢のない人間なので、宝くじを買ったことがない。