中国人留学生

ひょんな縁で、東京の語学学校に留学中の中国人青年に会った。大学卒業後、すぐに東京へやって来て、現在2ヶ月ほどになるという。


一人っ子政策の第一世代にあたる彼は、今どきの勉強ができそうな中国人学生によく見かける銀の丸眼鏡を鼻にひっかけ、ひょろりと細長い。大学の専攻は理系で、英語を勉強していたという。それなのに何故、日本に来たかといえば、貿易関係の仕事をする母親の会社が日本とも取引があり、その母の勧めだそうである。


日中関係が底冷えのこのご時世、日本にいて不快な思いもすることもあるのではないかと聞いたところ、「日本はいいですね〜」と笑顔が返ってきた。お世辞かといえばそういうわけではなく、「北京にいたときは、日本ってこんなところだと思わなかった」そうである。確かに連日、抗日ドラマが放映され、日本政府へのバッシング記事も後を絶たない中国では、日本の印象がいいわけもない。


もっともこれに関する中国政府の言い分は、「日本がいちいち我が国の神経を逆なでするから」であり、対する日本は「中国の反日教育がいかん」という。いまひとつ話がかみあっていないように思うのだが、いずれにせよ溝も誤解も嫌悪も深まる。


それさておき彼の目下の問題は、来日3ヶ月間はバイトが禁じられていることで、とにかくお金が厳しいという。また母親は日本の大学院に進むことを強く希望しているが、「僕は早く働きたいんだよね」と難しい顔をする。それで本人の目標はといえば、「日本人のような日本語を話せるようになること」。


確かに語学は重要だが、その語学を使って何をするかのほうが重要ではないかと言うと、あどけない顔をした北京育ちの青年は、丸眼鏡の向こうの小さな目をしばたいていた。