北斎とブレイキング・ニュースと終戦

東京国立博物館北斎展で、人に埋もれる。一瞬の動きを止めたような北斎の版画は、その向こう側の別次元へ繋がる小さな入口のごとくである。


渋谷で「ブレイキング・ニュース」を見る。監督は香港映画の重鎮ジョニー・トー。香港の闇社会を描く同監督の「PTU」はストイックでゴチックで、見終わったあとに格好つけたくなる。くだんの「ブレイキング・ニュース」も刑事役のケリー・チャンと犯人役のリッチー・レンが展開するメディアを利用した心理戦がスリリングでスタイリッシュで、どこかなまめかしく濃厚な香港映画だった。


祖父の死後、「私の軍隊手帳」なるものを残しているのを知った。自らの戦争体験をまとめたもので、一昨年亡くなる少し前に、娘である母が自費出版し、身内に配っていたのだという。


自分の祖父ながら、明快な記録力と達者な筆致で、中国とインドネシアでの参戦経験が綴られていた。果たしてどこまで祖父が真相を語っていたかは分からない。激しい戦闘シーンはかなり割愛されていた。しかし中国で屋台の饅頭をただ食いしているところなどは祖父らしく、最後はインドネシアの山奥で終戦を知った話で終わった。


もう食べるものがないから分かれて日本を目指そうと、数人残った隊が分散する。その数分後、「食糧を奪いに行こう」と分かれた隊の後を追う。生い茂ったジャングルの葉のすれる音が聞こえてくるようなラストに、もう会うことはない祖父を想った。