アピール力

敦煌で新たに5つの莫高窟を一般に公開したそうである。といっても、それに反応する人は、日本でも中国でもある一部のマニアやファンに限られるだろう。今年、敦煌の観光業は不調だったと現地で店をやっている人から聞いた。くだんのニュース記事では、「人の少ない冬こそ、敦煌の歴史と芸術の旅にふさわしい季節」とあったが、その「冬期旅行」の提案者は敦煌研究院とのこと。旅行者へのアピールという点からいえば、たとえば莫高窟ごとに1000円近くかかる見学料が半額にでもなった方が、集客パワーは上がるだろう。なんとなく、研究者臭い発想なのである。


内田樹(たつる)」にはまった。神戸女学院大学の教授で、近著の『知に働けば蔵が建つ』によれば、専門は「フランス現代論、映画論、武道論」。大変お忙しそうなのに、毎日、なが〜いブログを書いておられる。同書はそのブログをきっかけとしたもので、夏目漱石は「知に働けば角が立つ」と書いたが、先生の場合は「蔵が立つ」のである。


また、ときどきやっている「天声人語フランス語訳」は「なかなかよい勉強になる」とのこと。「何をいいたいのかよくわからない文章(「天声人語」はその好個の文例である)を仏訳するというのは、論理的に明快な文章の仏訳よりは語学力の向上に役立つ」そうである。


同書の中では中国論も展開され、たとえば反日デモは「『そうすることによってあなたがたは何を言いたいのか?』と私たち日本人が問うことを求めている」ものであると、海外から分かりにくい日本像について注意を喚起する。


反日デモの当日、北京にいた私は、あれは中国の「社会で何か言いたい人々」が「反日」という彼らの「オピニオン」を存分に解放した瞬間だったのだと今でも思っている。そしてそれ以上でもそれ以下でもなかったという実感がある。けれど、すでに日本で繰り返し語りつくされた感のある「反日論」について、飽き飽きしている読者に何かを投げかけるのであれば、ただそこにある現象以上の物をどれだけ出せるかというところに、プロとしてのアピール力が問われる。と思いつつ、でもちょっとヤラレたというか、なんだか卑怯なり、という気がしないでもない。