距離広告

北京で、オリンピックを意識したテレビの公共広告をときどき見かける。ポイ捨てをやめましょうとか、痰は痰ツボにといったCMが多いが、中には「距離広告」というものもある。


背を丸めて勉強をしている子供の映像から始まり、「距離は健康のため」と文字が現れる。続いて渋滞の車道で車間距離を詰めすぎた車が急ブレーキをかけるシーンでは「距離は安全のため」、ホームで黄色い線から飛び出そうとする子供を親が止めるシーンでは「距離は保護のため」、最後に空港の出入国審査にてストップラインに並ぶシーンでは「距離は尊重のため」。


中国ではよく人に密着される。大学生の女友達と一緒に歩いていると、なんとなく腕を組まれることもあれば、切符売り場で後ろに並んだおじさんがぴたりと密着してくることもある。この場合、特にくっつきたわけではなく、早く切符を買いたい気持ちがそうさせるのだと思う。地下鉄でつり革につかまっていると、乗り込んできたおばさんに密着されることもある。おそらくおばさんの眼中に私の存在は入っていない。


あるときバスで座っていると、座席に寄りかかってくるお姉さんがいた。圧迫されるので「ちょっとどいてください」と声をかけると、「何よ!別にいいでしょ!」といったたぐいの中国語が10倍くらいになって返ってきた。つくづく距離を尊重してほしい、と思う瞬間なのである。