好きで嫌い

中国の民間企業で働くなかなかリッチな若手サラリーマンが、日本と仕事をしたい、日本にすごく行きたいという。たまたま彼の会社が日本と多少の関係があるのだが、彼自身は外国には一度も行ったことがなく、日本人と話をするのは初めてだそうである。ときどきこうした中国人サラリーマンに出会うことがある。


それで日本を好きかといえば、くだんの青年は「日本暮らしが長い中国人の知り合いは、日本人みたいになっているけど、俺は東北人だし、けしてそうはならない」と言う。中国の東北はかつて皇帝を輩出した土地であり、男性上位の亭主関白な土地柄でもあり、個人的にはいい意味でも悪い意味でもハートの熱い人々である。そのうち「俺のおじいさんは日本軍に捕まって強制労働された」といういつもの話になり、盛り上がった青年は自分が新聞に投稿したという強制労働に関する記事を、後でメールで送ってきた。


日本との接点の少ない中国人は、往々にて、ホンモノの日本人に会うと「中国における日本の歴史」を披露する。青年にとってはコミュニケーションの一貫で、スキンシップのようなものだと思うのだが、何にせよ、異文化コミュニケーションの機微とか礼儀とかをつくづく考える瞬間なのである。