上海の匂いと2角(3円)を巡るケンカ

所用あって、上海に来た。北京が長くなればなるほど、上海に来ると、ここはまるで外国みたいだと思う。上海語はまったくよくわからない。スーパーでもタクシーでも、とりあえず最初に上海語で話しかけられ、目が白黒する。あれは、耳で聞くかぎりではまるきり外国語なのである。


通りで見かけるカフェは、普通にカフェだし、雑貨店もこぎれいだ。北京ではカフェも雑貨店も、見た目はなかなかオシャレなのに、中に入るとどこかちぐはぐで田舎ぽさが残り、いまひとつなところが多い。


町中には、北京ではめったに見かけないイケメンが普通にそこいらじゅうを歩いている。おじさんたちのスーツも、よれよれしていない。道行くサラリーマンから漂う中国臭のごときものはさっぱり薄れ、「どこにでもいそうな人々」である。


北京の人は、しばしば上海人を非常に嫌う。上海人は利に敏く、腹の底で何を考えているのかよくわからない、冷たいという。もちろん個々人それぞれなので一概にはいえないが、みなそこそこリッチに近代化し、外国慣れした上海の人々は、ある種の「田舎」である北京からやってきた者には、どこかよそよそしく他人に対して無関心に見える。


それはあるいは、東京の雰囲気にも似ている。私自身も東京に帰れば、他人との距離感や無関心さを無意識のうちに醸し出すだろう。近代化しリッチになった都市は、どこか同じ匂いがするように思う。


ところで、上海の公共トイレに入ると、2角(約3円)を取られ、かわりにかなりボロいちり紙を1枚くれた。それはそれでいいのだが、ちり紙をもう1枚取ろうとすると、トイレの入口のおばさんはちり紙の山を押さえ、「もう2角」とのたまった。


ちり紙1枚につき、2角加算されるという。そんなケチな公共トイレがあるかとケンカをすることしばし。結局、上海の人に北京からやってきた日本人が勝てるわけもないのだが、ちり紙1枚2角をめぐって思わずケンカをしてしまうのは、上海ならではというか中国ならではかもしれない。